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地域主義工務店だからできること

この街に住みたい (新しいむこう三軒両隣 「あたたかい」暮らし方)

自然素材を活かし、光や風・木の香る住宅づくりを手がけている彩工房・株式会社DACが、この度宇治の地で新しい街づくりを目指して取り組んでいる「彩の街」。一戸一戸に個性を持った九戸の斬新的な集合は新しい空間を創り出す。隣家が互いに触れあえる共有の空間を通じて人と人とのつながりを促し、ともすれば失われがちな地域のコミュニケーションを活発にする、「新・むこう三軒両隣」の関係を創り出す提案である。新しいスタイルの「住みたい街」としてプロジェクトがいよいよスタートをきった。
今回、このプロジェクトの企画・設計を担当する建築家の田中敏溥氏と彩工房主宰森本均氏に語り合ってもらった。
田中敏溥(たなか・としひろ)先生 プロフィール
1944年新潟県村上市生まれ。
昭和5年岐阜市生まれ。
69年東京芸術大学建築科卒業。
同大学院修了後、建築家・茂木計一郎氏のもとで建築と環境設計活動に従事。
77年田中敏溥建築設計事務所を設立。
これまでに数々の住宅設計を手掛けているほか、家具やインテリアデザインでも活躍する。
   
新しい街づくり
森本 

今回、宇治矢落の地に出逢えたことは、「この街に住みたい」、「住み継がれる」家づくりを目指す私共の考え方が大いに実現できるという期待でいっぱいです。「彩の街」は単に大量生産的な建て売り住宅を販売するのではなく、現代が抱える人の心や環境の問題、街全体の景観や空気などを含めデザインされた街づくりを考えながら、一戸一戸は個性を持つ家をきちんとつくりたいのです。だから街と人間の生活のバランスを常に考慮に入れた設計をされる田中さんにぜひ関わっていただきたかったのです。

田中 
今回はひとつのエリアに九戸の調和を考えながらひとつひとつの家をつくるということでわくわくしています。街全体のたたずまいや、道路との関係を考慮に入れながら、お隣とぎくしゃくしないで集まって住む家づくりを目指します。問題もありますが、根気よくひとつひとつクリアしていこうと思っています。
森本 
最初に田中さんから配置計画のご提案を受けた時、あまりの斬新さにびっくりしました。個人の権利を守りながら、互いの接するところを共有して有効利用する。個人が主張しすぎて互いが損をしている関係が穏やかに、互いが得になるような着想がいいですね。
田中 
三十坪ほどの土地に、車が二台置ける駐車スペースと庭を考えると少し狭い。ですから、車を置くスペースに、車が置かれていない時も街並みとして美しく、しかも子供が遊べたり広く有効利用できるカーポートを確保し、次に家を考えたのです。そして敷地境界は杭を打ってはっきりさせておき境界塀をつくらずに人が通る道にします。自由に行き来でき、使い勝手が良く互いにとって活きた土地になります。昔の路地の発想です。
森本 
京都の町家や路地的なイメージですが、隣と友好的な家同士であればいいが、プライバシー問題としては大丈夫だろうか、最初は良くても引っ越しされた場合次の入居者とも友好な関係が築けるかなどの問題がプロジェクトチーム内では激論になりました。しかし「彩の街」で生まれた何かルールみたいなものが、新しい形で「むこう三軒両隣」の暮らし方に展開していけばと、あえてこの提案にチャレンジすることにしました。積極的に隣近所と付き合っていく住まい方をすることは、子供たちが成長する課程で、人に対する思いやりや目上の人との関係を学ぶことにつながります。そして、どんなふうに遊び育っていくか楽しみです。
田中 
路地の突き当たりは公園や道路なので見通しがいい街環境ができます。防災、防犯など地域全体の安全性につながり、お隣のおばさんが向かいの子供に声をかける機会も増えてくると思います。「むこう三軒両隣・安全で快適な暮らし」がキャッチですね。
森本 
日ごろの近所の付き合いが、防災や防犯に大きくかかわりのあることは言うまでもありません。そんな人間関係が地域ぐるみでうまく定着していけばと願います。
可能な限り自然素材を
森本 
ところで今回は施主が未定なので、住む人を想定した設計となりますね。
田中 
若い夫婦に男女の子供たちの四人家族を基本に、最初はひとつの子供部屋もそれぞれに分けられる設定にしました。また、田舎の両親が一、二泊ぐらいできる部屋も確保しようと考えました。のびのびした空間、風の通る家、自然素材にこだわる家。少しよくばりましたかね。
森本 
最初、リビングが一階にあるプランと二階にあるプランの二つを出していただきましたがこれはなにか意図的なことでしたか。
田中 
普通、一般的には一階にパブリックスペースをつくります。今回は土地がそれほど広くなく車も二台分のスペースが条件でしたから、前面道路に広がりのある区画は、敷地の条件を踏まえて二階に開放感のあるリビングをもってくるプランも考えました。他の区画にはない視界の広がりのある、大らかな家になります。
森本 
自然素材の話に戻りますが、庶民に手の届く節のある国内産材はどうしても安物というイメージがあり、うまく使わないと山小屋になってしまいます。それでもシックハウスになるよりは健康的で良いのですが、なんとかデザイン力で「ナチュラル・モダン」な住宅になるように努力しています。田中さんの作品を見ておりますとそのあたりに、かなり工夫されているように感じますが。
田中 
できれば地場の木で地場の職人さんと家づくり、街をつくりたいのです。この不況の中大変ですが、一方では物の質の良さとか、良い物を永く大事にしよう、時間がかかっても育てようと、時間の価値、物の質に気づき始めました。地域の工務店の方でもそういう感じ方、考え方をもった人が増えてきています。施主も施工者も設計者もそういう意識を持てば、自然素材を使う方向になっていきます。また節のある国内産材などはやぼったいという考えに対しては、設計のデザイン性の問題でいろんな形で提案していけると思います。
素材の安全性
森本 
安全で健康な住宅をつくることは、使う素材を先ずよく知ることから始まります。MSDS(化学物質安全性データシート/事業所間の化学物質の取引時に交付し、危険有害性に関する情報を積極的に提供しようというもの)によって少なくとも素材の安全性を確認し必要なことは住まい手に説明できなければなりません。コスト面や施工の作業性からすると足かせになる場合もありますが、なりふり構わず取り組んでいかなければならないし、必ず乗り越えなければ実現できないテーマです。現場で仕事に携わるプロとはいえ、日々の仕事に追われてなかなか根本のところを勉強していくのは大変です。何かのきっかけになればと昨年の春から「建築塾」を始めました。様々な問題や課題について講師の方々とのディスカッションやフィールドワークから得られるものは多く、造り手にとっての勇気と勉強の場となっています。
田中 
これから求められるつくる側の大切な姿ですね。
森本 
彩工房の家には少しイニシャルのコストはかかりますが、省エネルギーで快適な環境を実現するために壁体内通気工法のパッシブソ−ラーシステム(動力を使わず太陽光を利用するシステム)を採用しています。注文住宅の場合は施主の理解と現場の立ち会いで確認していただけますが完成すると施主には見えませんので、今回の宇治矢落のように先に建ててしまう場合はコストについて理解を得ることに課題が残ります。住めば快適さをきっと実感してもらうことはできるのですが。
田中 
いい家とは人間の健康と暮らしに優しいこと。彩工房はこういう考え方で、人と街、ひいては地球に優しい家づくりを辛抱しながらも時代を担って進めていこうとしています。今そういう価値観の人が増えてきているし、またそういう意識を持つことの大切さに気づかない人は多分ある意味で生きられない。人は本当にいい家を求めています。
住宅の役割
森本 
効率化を目指す時代の中でも百年かかってできる木の年輪は五十年では刻むことはできません。自然には人間では手の届かないペースがあるのです。コストダウンの住宅は時間を削ったたまものではありますが、削れない時間の世界が、私たちの生きる地球にはある。そういうペースを大切にしないと生活がぎすぎすして追われた人生になり、子供たちもゆったりと育ちません。住宅が果たす役割は大きく、地域の風土にあった家づくり、暮らし方を提供していくことが人間本来の生き方。豊かな感性が取り戻せることになるのではないかと感じています。
 
 
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